紳士とワン公

夕立の上がった夏の午後、

場所は東京、芝、増上寺付近。

私が車を運転中、赤信号にて停まっていると

薄いグレーのパンツ、そして紺のジャケット、水色のクリケットシャツに紺と銀のレジメンタルネクタイ

手にはフォックスを思わせる傘、鞄はダレスのような重厚なバッグ。

年のころなら40才前後の紳士が横断歩道を歩いておりました。

その隙のない服装にしばし眼をとられていると、

丁度この紳士の反対側からなにやら動く、毛むくじゃらの物体。

土砂降りにあった後の薄汚れたワン公が一匹、変わりかけた信号に横断歩道をてくてく渡り始めました。

チャウチャウのようなそのワンコ、こともあろうか横断歩道中ほどで鎮座してしまったのです。

ワンコが動かぬとこちらも動けぬ、と思ったところ、

それに気づいたくだんの紳士、その犬を追いやるように手で追いたて始めました。

しかし、強情なワンコ、涼しい顔で横断歩道中ほどに居座りを決め込んだようです。

その間我々は発進できず、多くのドライバーが紳士の奮闘ぶりを見守っていた事でしょう。

動かないと思ったその紳士、あきらめて立ち去るかと思っていたら、濡れて汚れたその犬を、なんと小脇に抱え込んだのです。

 「え!、汚れてしまうよ、ブリティッシュスタイル。」

驚いたのは私だけでしょうか?

左に鞄と傘を持ち、右に汚いワン公。

ワン公、紳士に抱かれ、暴れる事も無くおとなしく歩道へと運ばれました。

まるでそうされるのを待っていたかのように・・・。

我々は無事発進できました。

彼の紳士、何事もなかったように道を歩くその姿に彼の人柄とファッションが重なり、

「う〜ん、ダンディ」という言葉が自然と浮かび上がりました。

車のウインドウ越しに短いドラマを見たような、さわやかな気持ちになれた一瞬でした。

果たして自分ならあの汚いワンコ抱きかかえたであろうか・・・・。
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