1990年頃、バブル時代の終わり頃のことでした。

車好きな私はある車雑誌で珍しい車を見つけました。

1973年製のプジョー304s。日本に入ってきたのは多分この1台だけではないかと思います。

日本では希少な車ですが、貴重であるかどうかはわかりません。

決して高級車ではなく、大衆車。フランスの昔のパトカーに使われていたようなフロントマスク、

後ろはアルファロメオ1750GTVに似た感じの車です。

当時でもすでに16年ほど経った中古車です。

その車がさらに珍しいのは通常のセダンではなく、真っ赤なオープンカーで二人乗り。

ピニンファリーナデザインのその車は私を釘付けにしました。

さらに、 その記事の紹介文が「いけて」ました。

物語風に書かれたそれは、連日の仕事に追われた主人公がやっと仕事に区切りをつけ、初夏をこのオープンで

海に向かうというシチュエーション。

仕事で忙殺されていた私は 自身を主人公に投影し、「いいねぇ、
いいねぇ良いねぇ欲しいーっ!

と、 よく見ればまだ販売中とのこと。

いてもたってもいられなくなり、早速翌週には見学にいきました。 現物を見たときにはもうアウトです。

心はすでに夏の海。
.
冷静に考えれば、メンテナンス他の問題があろうことに頭が働かず、

さらに、すでに何人かが見に来ているということを聞き、その場で予約、購入してしまったのです。

それから納車までの月日にどれだけかかったか、驚くべきはなんと8ヶ月!。

新車の予約待ちではありません。並行輸入の、すでに現車が日本にある中古車、それの納車が8ヶ月。

店の親父いわく、どこそこの部品がよろしくないのでフランスからの部品待ち、そこが治ったと思ったらまたあちらと、

納車前にこの有様。

病に侵された私は既に車の代金を払っていながら、「夏の海、夏の海」と待っておりました。

しかし、待望の夏はすでに過ぎ、季節は冬です。まぁ来年だな、日本には他に同じ車がないから仕方ないかと、

今年の夏はあきらめ、それから催促に催促を重ねて納車された車は数ヶ月前に見たその車とどこか違います。

実際は違ってはなかったのですが、8ヶ月間の業者とのやり取りで疲れ、こちらが変わってしまったのだと思います。

熱が冷めてしまったというのか。

まぁ納車されたのだから一件落着、後は海へ
ゴー!さと思っていたら・・・・・・・。

ここからが苦難の始まりでした。

ある日目黒の交差点を右折しようとしたら、「
バリバリッ!」と轟音が・・、どこの暴走族かと思いきや

わが愛車が叫び出したのです。ふと後ろを見ると、見慣れぬ棒状の物体、それは何と

道路に横たわるわがマフラー!

あわてて車を止め、後続車に迷惑をかけぬように移動させようと むんずとつかんだら、「
アチッー!

熱いんですマフラーは、すごく。蹴飛ばしながら路肩へよせ、レッカー車にて運ばれるわが愛車。

さらに、度重なるエンスト、ブレーキの故障と、そのたびに部品を本国より取り寄せ、あるいは一点物での製作。

よく見ると床から道路が見える!穴が開いていたのです。動いているよりも修理の時間がはるかに長い。

たとえ乗ることができても不安であることおびただしい。

街中のあちこちで立ち往生した姿をさらしました。珍しい車であることも相まって視線の痛いこと、痛いこと。


当時はやっていた「スイングアウトシスターズ」の軽快な音楽を聞きながら

初夏の風を受け海へ向けドライブという図は雲散霧消し、近場を恐る恐る走るのが精一杯。

結局、他にも車を持っていたため修理代の捻出ができなくなり、手放すことになりました。

時間をかけフルレストアをして乗ることもできたかと思いますが、お金と時間の余裕がありませんでした。

以後車雑誌に販売されているのを見たことがないので、どこかでどなたかが乗っていられるのか、

あるいはさびて朽ち果ててしまったのか。

あばたもえくぼとはよく言ったものです。好きになると他のことが目に入らない。

熱に侵された私の顛末です。

販売した店はバブル崩壊とともに倒産。

海外の珍しい車が右から左へ売れた時代です。それもとてつもない値段で。

数年は業績を伸ばしたようですが、販売すれどその後のサービス体制に問題があったのでしょう。

土地ころがしと同じ感覚の商売が多数存在しました。

思えば、あの雑誌の紹介記事が事の始まりでした。

車は道具ですが、どんな車でも良いわけではなくその車でなくてはなりませんでした。

道具である条件としての普通に走り、止まるという当たり前のことが全く頭になく

イメージを実現するその物が何としてもなければなりませんでした。

もし、機能だけの説明の記事でしたらそんなに心が動かなかったと思われます。

あの記事を書いた記者の方はその後、どれだけの苦難が待ち受けているか想像だにしなかったでしょう。

機能で選べば絶対に選択しなかったあの車、それは車だけではなくモノにも通じます。

機能的にはだめでもどうしても気持ちが欲しがり、理性で納得させる、そんな物もあるのは事実です。

そんなモノに出会ったら・・・・・・・・・・・。

いいじゃないですか手に入れましょう!

心ときめくものに出会うというのは人生そう多くはないと思います。

そういうモノをご紹介できたら幸せです。

基本の機能は満たした上で・・・・・・・・・・・・・。

プジョー304S コンバーチブル
私の心を奪い、そして苦労をさせていただいたのはこの車です
今はいづこへ・・・・・・・。
プジョー304S、1300cc FF 4MT 60PS、
エアコンなし、ラジオなし
二人乗りオープン




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